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東京地方裁判所 平成6年(特わ)462号 判決 1994年10月27日

本籍

東京都江戸川区松江二丁目三六九九番地の四

住居

同区一之江七丁目三二番一二号

会社役員

岩楯安夫

昭和一〇年三月三一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官加藤昭、弁護人永山忠彦(主任)、同鈴木啓文各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

税務訴訟資料第二〇四号

被告人は、東京都江戸川区一之江七丁目三二番一二号に居住し、同所において「丸盛」の名称で建設機械リース及び下水道工事を業としていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、架空給料賃金を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成元年度分の実際総所得金額が九九五七万九九〇一円(別紙1の(1)の所得金額総括表、修正損益計算書及び修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成二年三月一五日、東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号所轄江戸川税務署において、同税務署長に対し、平成元年度分のみなし法人所得金額が二四三万九二〇七円、総所得金額が一二九八万六五七四円でこれに対する所得税額が二〇三万二三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書、(平成六年押第一一九五号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四三九〇万四三〇〇円と右申告税額との差額四一八七万二〇〇〇円(別紙2の(1)のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成二年度分の実際総所得金額が九一四八万六二六六円(別紙1の(2)の所得金額総括表、修正損益計算書及び修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成三年三月一四日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、平成二年度分の総所得金額が八一七万四四〇三円でこれに対する所得税額が一三二万四八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四一四四万九五〇〇円と右申告税額との差額四〇一二万四七〇〇円(別紙2の(2)のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成三年度分の実際総所得金額が一億三二九二万五二二〇円(別紙1の(3)の所得金額総括表、修正損益計算書及び修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、平成三年度分の総所得金額が一九八三万〇六一九円でこれに対する所得税額が五五五万一九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額六二〇〇万六〇〇〇円と右申告税額との差額五六四五万四一〇〇円(別紙2の(3)のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  岩楯歌津子(五通)及び岸本安市の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の売上調査書、外注工賃(製造原価)調査書、減価償却費(製造原価)調査書、減価償却費(一般管理費)調査書、給料賃金調査書、リース料調査書、専従者給与調査書、貸倒引当金繰入調査書、事業専従者控除調査書、利子収入調査書及び証明書

一  検察事務官作成の売上、減価償却費(製造原価)、源泉徴収税額及び税務署所在地に関する各捜査報告書

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書

一  検察事務官作成の利子収入及び雑収入に関する各捜査報告書

判示第一及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の利子割引料調査書

判示第一の各事実について

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書、事業主報酬調査書、みなし法人所得調査書、配当収入調査書、給与収入調査書及び給与所得控除額調査書

一  押収してある平成元年分の所得税確定申告書等一袋(平成六年押第一一九五号の1)及び所得税青色申告決算書等一袋(同押号の4)

判示第二及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の貸倒引当金繰戻調査書及び青色申告控除調査書

判示第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の固定資産除却損調査書

一  押収してある平成二年分の所得税確定申告書等一袋(同押号の2)及び所得税青色申告決算書等一袋(同押号の5)

判示第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の原材料仕入高(製造原価)調査書

一  検察事務官作成の給料賃金及び利子割引料に関する各捜査報告書

一  押収してある平成三年分の所得税確定申告書等一袋(同押号の3)及び所得税青色申告決算書等一袋(同押号の6)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当する(ただし、第一及び第二の罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)ところ、各罪につき、所定の懲役刑と罰金刑を併科するとともに情状により所得税法二三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪について定めた罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金三〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、建設機械リース業等を営んでいた被告人が、三年度にわたり、合計一億三八四五万円余の所得税をほ脱した虚偽過少申告ほ脱犯の事案であり、ほ脱税額は決して少ないとはいえないし、ほ脱率も通算約九四パーセントの高率に達している。犯行態様も、外国人労働者への人夫賃の支払を給料賃金として二重に計上するとともに、架空従業員を仕立て上げ給料賃金の支払を仮装し、領収証の偽造等により架空外注工賃を計上するなどして架空の経費を計上するなどしたものであって、計画的で相当悪質である。被告人は、倒産した同業者の自殺を見て、景気変動に備えて資金の留保が必要と感じ、脱税を思い立ったと述べているが、そのような事情があったとしても、違法な手段による資金留保が許容される訳ではなく、犯行の動機も特に酌量に値するとはいえない。以上の諸点に加え、この種事案については一般予防の必要性が高いことにかんがみると、被告人の刑事責任は軽視できないところである。

しかし、被告人は、国税当局の査察を受けて以来、事実を認めて調査及び捜査に協力し、国税当局の指導に従い、本件三年度分の所得税は、重加算税等の附帯税を含め完納しており、地方税についても分割支払中であること、被告人は本件犯行を反省し、事業を法人化して経理の明朗化を図るなど再発防止の措置も講じていること、被告人には古い罰金前科以外には前科がないこと、被告人は事業の才覚に恵まれ、長年にわたり真面目に事業経営を行ってきたものであること、本件の摘発により、少なからず信用を失墜し、ある程度の社会的制裁も受けていること、少なくない従業員やその家族の生活にとって被告人の存在は不可欠であることなど、被告人のために有利に斟酌すべき事情も認められる。

そこで、以上の事情を総合考慮し、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのが相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年二月及び罰金四〇〇〇万円)

(裁判官 安廣文夫)

別紙1の(1)

所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正製造原価報告書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙1の(2)

所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正製造原価報告書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙1の(3)

所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正製造原価報告書

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙2の(1)

ほ脱税額計算書

<省略>

別紙2の(2)

ほ脱税額計算書

<省略>

別紙2の(3)

ほ脱税額計算書

<省略>

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